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62.小話:幸せに向かって 2

Author: 望月 或
last update Last Updated: 2025-07-08 16:05:41

 フェニクスの背に乗り、あっという間にラエスタッド城に到着したヴィクタール一行は、門番の知らせを受けバタバタと走って来たウェリトの出迎えを受けた。

「もうっ、兄さん遅いよ! 本当に来ないかと思ったじゃないか!」

「よぉウェリト、久し振りだな。悪かったな、伝言を受けた精霊が伝え忘れていてさ。さっき聞いたばかりなんだよ。これでも急いで来たんだし許してくれ」

「えっ、そうなの? じゃあしょうがないか。とにかく間に合って良かったよ」

 先程まで両目を吊り上げ頭から湯気を出し怒っていたウェリトは、ヴィクタールの理由を聞いて目尻を下げすんなりと許した。

「おやおやアナタ、お兄さんに似てますねぇ。嫌いではないですよ」

「えっ? あ、ありがとうございます……でいいのかな?」

「コイツは捻くれ者で好き嫌いが激しいからな。『気に入った』って意味に捉えていいぜ」

「そっか。海の精霊様にそう言って貰えて嬉しいよ」

「捻くれ者は余計ですよ。ワタクシに気に入られる事はそうそう無いんですからね。頭を深く垂れて光栄に思いなさい」

「あ……は、はい……?」

 ふんぞり返ってシルクハットが落ちかけているレヴァイに、ウェリトが戸惑い気味に返事をする。

「ウェリト、真に受けんなよ。ったく、何様だお前は」

「偉大で高貴な海の精霊様ですよ」

「なーにが偉大で高貴な海の精霊だ。リィナの唄を聞いてピーピー泣き喚いてたくせに。なぁ“海の悪魔”サン?」

「……アナタには特別に母なる海から抱擁をして差し上げましょう。光栄に思いなさい」

「それ『海に沈めるぞコラ』って言ってんだろ」

 ヴィクタールとレヴァイが言い合っている横で、リシュティナはウェリトに頭を下げ、言葉を紡ぐ。

「ウェリト殿下、ご婚約おめでとうございます」

「あぁ、ありがとう。リシュティナさんももうすぐ俺の“義姉”になるんだから、もっと気さくに接していいよ」

「えっ!?」

 ニヤリとするウェリトに、リシュティナの頬が一瞬で赤く染まった。

「そうだぜ、リィナ? ウェリトはもうお前の“家族”みたいなもんだからさ、敬語は必要無いぜ」

「そ、そうは言っても、心の準備が……っ」

「ははっ。リシュティナさん、ゆっくりでいいよ。――兄さん、パーティーに着る彼女のドレスを準備しなきゃだよ。城下町にある王家御用達の衣類店で見てきたら? あそこなら種類も豊富だし、リシュティナ
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